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ツイッターに書ききれないことを書くところ

ツイッターに書ききれないことを書きます

人生初の海外旅行について・モロッコ編(前半)

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「アフリカの土を踏む」ということしか考えていなかったので、ろくに下調べもせずにモロッコに行った。今になって考えると、インターネットに頼れるポルトガル国内旅行と同じ感覚で行ったのは無鉄砲だったとしか言いようがない。そういう性向は時にとんでもないアドバンテージになるのだろうが、僕が持つ無計画さは決して良い方向に転がらないタイプのやつだ。

とにかくそれがすぐに災いした。

  

スペイン南部の町アルヘシラスからフェリーで約一時間半かけて、モロッコのタンジェ港に向かう。ちなみにこのアルヘシラスという町はそれなりに大きく、交通の要所という印象だ。友達が疲れて休んでいる時に少しひとりで歩き回ってみたのだが、観光に対するやる気がまるでなさそうな町だった。アフリカに船で渡りたいがためにこの街に立ち寄る旅行者が沢山いそうなのに。

往復のフェリーチケットは事前購入していた。タンジェという町はそれなりに大きいし見るところもあると聞いていたので、そこを少し見てその日のうちに帰ろうと考えていたのだ。

しかしそうはいかなかった。フェリーの中で出会ったポルトガル人夫婦によると、我々が向かうタンジェ港(タンジェ新港)は貿易港であって市街地から大分離れており、市街地へ向かうには片道50ユーロほどのタクシーを利用しなければならないという。日本での大学から実家への帰省費用すら下回るような予算で旅行をしていた僕にとって、それはあまりにも大きな金額だった。

なぜ事前に港の周囲くらい調べておかなかったのだろうか?まるで成田空港に到着すればすぐそこが都心だと思うようなものだ。港で帰りの船を待ち続けるか、アフリカの土は踏んだし……と覚悟した。

 

ところが、その夫婦はセウタまで車で送ろうかと提案してくれた。セウタはタンジェとは逆方向にあるスペイン領の土地で、港からタンジェ市街地よりも近い位置にあるうえ、スペインまでのフェリーもある。自分たちも旅行をしているから車に乗せてあげよう、そこからは自分たちで何とかしてくれ、ということだった。タンジェからアルヘシラスの帰りのチケットは捨てることにはなるが、本当にありがたい提案をしていただいた。

フェリーがタンジェ新港に到着した。では後で会おう、と言って、夫婦は自分たちの車を取りに向かった。

 

ミスその2。なぜ彼らの連絡先を聞いておかなかったのか?

 

僕たちは港に着いたが、夫婦とその車が一体どこにあるのか見当がつかない。ターミナルをまわり、駐車場をまわり、外の巨大なテラスのようなところへ出て、間違えて港職員の事務所が並ぶところにまで立ち入ってしまった。30分くらい歩き回ったが何もわからないし、英語もほとんど通じない。とりあえず港の外へ一度出てみようということになった。

出口はふたつ、どちらもテラスの下にあり、薄暗くて気味が悪い。ひとつではタクシーの集団が待ち構えていて、もうひとつは警官が車の出入りを監視していた。

まずタクシーの集団がいるほうへ向かうと、その向こう側に座っていた黒服の男が立ち上がってこちらへ向かってきた。明らかに不審人物だったが、今思えばあそこで逃げる必要はなかったのだろう。やりすごしてタクシーの運転手に色々と聞けばよかったはずだ(何語を話すかは別として)。しかし僕たちは撤退した。

警官が管理している出口へ向かう。少し離れたところに不審な男がいたが、道を聞こうと警官に話しかけた。僕が英語で話しかけると、多少はわかるというような素振りを見せた。そこで詳しく道を聞こうとしたところで、友達に止められた。いつの間にか離れていたところにいたはずの男が僕たちの後ろに回り込んでいたのだ。テラスへの階段へ逃げるも、男はしきりに何かを呟きながらついてくる。階段も上ってきたが、僕たちがテラスに到達したところで追いかけるのをやめた。

 

相当びっくりしたのに、テラスの上でなぜか笑いが込み上げてきた。ゲームみたいだ、まさか港から出れもしないとは思わなかったな。これからは何が起こるんだろうと、心躍る感じがしたのだ。

友達が言うには、僕が英語をしゃべるのを聞いた瞬間、男の表情が変わって動き出したらしい。僕はといえば全く気を抜いていた。だって話しかけた相手は警官なのだ。友達は警官が偽物だったのかもしれないと言ったが、そうは思えなかった。彼は警察車両の出入りも管理していたからだ。自分の仕事は門の管理で不審者の相手をすることではない、ということなのか。それとも迷っている旅行者をカモにするということで組んでいたのだろうか。雰囲気からすると後者の気はしたが。とにかく、たとえIDを首から下げている人でもすぐに頼ってはいけない、というのは僕にとってかなりカルチャーショックだった。

  

テラスで少し話し、やはり警官のいる出口を一度抜けてみるのがいいということになった。階段を降りると警官も不審な男もまだいたが、仕方ないのでそちらへ向かっていった。

そのとき、船内で出会った奥さんの姿が見えた。こちらに気づき、向かってきてくれる。助かった。僕たちは出口の少し外に停められていた旧式の白いSUVに乗り、港から脱出した。夫婦は、国境の近くは大体治安が悪いものだ、どこの国だってそうだよ、と言った。ヤギが放し飼いにされている丘陵地を進みながら、先ほど出られなかった貿易港を見下ろした。やたらと揺れる車に、逆に頼もしさを感じながら西へ向かう。旅をしているのだという実感が、それを追いかけてくるはじめての高揚感とひと続きになっている。

音楽:Selfish Jean - Travis