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人生初の海外旅行について・モロッコ編(後半)

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旅行記も週一ペースでゆっくり書いていたら、そろそろ一ヵ月も経つのに完結していないということになってしまっていた。もう記憶もだいぶ薄れてしまっているが、前回の記事に「前編」とつけてしまったことだし、一応覚えていること、思ったことを書き留めておきたいと思う。ジブラルタル編はもういいや。

フニデク(Fnideq)というのが、僕らが訪れた都市の名前だ。もっともこれはあとで知った。インターネット接続がなくてもGPSは使えたので、場所の情報を保存しておいて後から調べたからだ。

 

フェリーで出会った夫婦のSUVに乗り、無事にタンジェ新港から脱出した僕たちは、セウタに向かった。ところが、モロッコからセウタへの国境がなかなか通過できない。いくつかのポイントを試したが、どこも通ることができないのだ。車が渋滞しており、僕たちが乗った車は幾度となく書類を売りつけてくる人々の集団に囲まれた。

夫婦によると、国境を通過するための書類を売っているのだという。無料で手に入るのだから買わなくてもいいということだが、かなりしつこく売りつけてくる。国境検問所に向かい、渋滞に巻き込まれてUターンする、ということを繰り返した。二、三か所を試し、国境通過は無理だということになった。

「予定変更だ、その辺のよさそうな街におろすので、タンジェまでタクシーで帰ってくれ」ということだった。まあ僕としても期待感が勝っていたというか、なんとかなるだろう、楽しみだという気分ではあった。

「ここなら、モロッコの地元の人と交流ができていいだろう」と、ある街にやってきた。それがフニデクだ。市場のようなものが近くにあり、露店が並んでいる。率直に言うと何となく陰鬱な感じがした。

 

近くのコーヒーショップの外のテーブルに座り少し話した。旦那さんは写真の学校を運営しているということだった。生徒を連れてよくアフリカにもやってくるので、モロッコには慣れているという。それにしてもなんという幸運なのだろうか、僕たちは、と少し笑ってしまいそうにもなった。

「知らない国に来た時にまずやるといいことは」、と彼は言った。「どこかに座って、そこから人々を観察することだよ」

まずはその土地をよく観察すること。しかし歩きながら観察するのは自分への注意が散漫になりやすいし、周りには不審にも映る。どこかに座って、落ち着いて観察すること。そうやって少しずつ空気感を感じるべきなのだと教わった。

こうも教わった。「すべてのモノに値段がついているアメリカのやりかたとは全く違う、ということを心に留めておくべきだ」。交渉という文化で成り立っている土地なのだ、ここで商取引をするのならかならず交渉が必要になる。彼らのやり方に合わせるんだよ、と教えてくれた。

 

夫婦がSUVに乗っていってしまうと、やはり急に心細さを感じた。そしてすぐに分かったことだが、言語が何一つ通じない。僕の英語も、友達のスペイン語も通じなかった。仕方がないので、買い物では指を一本、二本と立てていくことで値段の確認や交渉を行った。

僕はもちろんぼったくられるのが嫌なので割とピリピリしながら、慎重に価格交渉に臨んだ。友達も、「モロッコ基準で行くとこの価格は高すぎるんじゃないかな」と言いながら注意深く買い物をしていた。

 

それはそれで必要なことなのだと思うが、しかし高値を吹っ掛けてくることを、善悪という評価軸とははっきり分けるべきであるとも思う。

モロッコ人の平均年収は30万円というデータを見た(帰国後のことである)。平均的に、日本人のほうがはるかに豊かと言えるだろう。果たして旅行者である僕たちは、モロッコ人の基準ギリギリまで値切ることが必要なのだろうか?あまりにもよくわからないものでない限り、自分が値すると思った金額をはっきりと持ち、その基準で払えば、それでいいと思う。写真学校の先生に言われたとおり、必要なのは向こうの文化に合わせること。観光客に吹っ掛けることも文化であって善悪の観点から語るべきことはない。重要なのは、観光客価格を忌み嫌って現地相場ギリギリまで値切ることではなくて、自分の基準で価格交渉にまっすぐに向き合うことだと思うのだ。この二つは、見た目は変わらないかもしれないが、本質的にまったく異なることなんじゃないだろうか。

 

タンジェ新港への帰りのタクシーは一人1.5ユーロという異常な安さだった(50ユーロほどと聞いていた)。タクシーのなかで5人くらいのモロッコ人と飛び交うアラビア語に囲まれて、安すぎる、これから強盗にでもあうのだろうか?と正直不安になった。しかしその値段で、無事に港まで届けてもらった。未熟な旅行者の僕たちに優しさをくれたのだろう。

旅行の記憶が薄れていく中で思い返しても、果たしてどれだけの知らない人にお世話になったことだろう。実は気づいていない優しさを、どれだけもらっていたことだろう。ちゃんとした旅人になって、助ける側に回るまで、僕は死ねない。

音楽:New Soul - Yael Naim