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バスタオルを買った思い出

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この秋から留学を始めた同期の写真などを、最近よく見かける。それで自分の留学当初を振り返ってみると、とても小さな出来事でも、なぜかはっきりと絵が描けることがいくつかある。一つ思い出したので書いておこうと思う。

  

一月の終わりにリスボンに渡ったのだが、アパートへの入居契約は二月からであった。それまでの数日間、僕はホステルに宿泊していた。一泊12ユーロほどのところだったと記憶している。近年観光に力を入れているリスボンは、安く評価の高いホステルが増えたことでも有名だ。僕が選んだホステルも新しく、とても良いところだった。

ところで、少ない荷物でリスボンに渡った僕が持ってこなかったもの、その一つがバスタオルだった。現地で何とかするつもりでいたのだ。ホステルに宿泊している間は、有料ではあるがバスタオル貸し出しサービスを利用した。そのおかげで清潔なタオルを使うことができた。

つまりホステルを後にする日には、当然ながらバスタオルを買う必要があった。

 

その日、バスタオルくらいどこにでもあるだろうと考えた僕は、一番近くにあったスーパーに入ってみた。ところが、10分くらい探してもなかなか見つからない。僕は"指さしポルトガル語帳"みたいなやつを片手に店員に話しかけた。

「Onde é toalha?(タオルはどこですか?)」

髪を赤く染めたファンキーなおばちゃん店員はそれを聞いて、容赦ない、早口のポルトガル語で教えてくれた。言葉の意味は全く分からなかった。とにかくこの店にはないから、外に出て探してみろ、という意味であることは分かったのだが。

店の外に出て、僕は途方に暮れてしまった。バスタオルくらいで途方に暮れることもないのだろうが、とにかく"どんな種類の店"にそれが置いてあるのか分からないのだ。スーパーにはなかったし、日本のドラッグストアに相当しそうな店も周りにない。無論コンビニもない。

ショッピングモールに向かってもよかった。しかし当時はショッピングモールがどこにあるのかさえ分からなかったし、日も傾いていた。あの時間から大型商業施設に向かうのは大変だっただろう。それにバスタオルはその日のうちにいるものなのだ。地味に、困ることであった。

 

とにかく誰かに聞くしかない。周囲を見回してみると、道端に屋台のような感じで店を構えている人が目に入った。

リスボンには、ところどころにこういった店がある。売っているものはタバコ、雑誌、ちょっとしたお菓子など。通勤途中の人々が良く利用している。僕は店番の50代くらいのおじさんのところに言って、また同じように聞いてみた。

おじさんは僕が全くポルトガル語ができないと見るや、試行錯誤してなんとか伝えてくれた。道を横切るように言い、"チャイナ"のようなことを言った。指さされた方向に向かってみると、中国人によって経営されているらしい雑貨屋のようなものがあった。後で知ったことだが、リスボンにはこのように中国人によって経営される雑貨屋が多くあって、様々な日用品を取り扱っている。日本でいうとドラッグストアや文房具屋、ホームセンターあたりの役割を少しずつ果たしている、といったところだろうか。

そこで無事僕はバスタオルを手に入れた。

帰り道、少し距離はあったのだが、またおじさんのスタンドの横を通った。僕がちらっと見ると、薄暗い中でそれに気づいたおじさんが笑い、親指を立ててこちらに掲げていた。ちゃんとみつけたか?ということのようだった。僕も親指を立てて手を挙げ、それに答えた。

 

それで、この話はおしまいだ。これだけだ。しかし、この時胸にじわっと温かく走るものがあり、その感じは不思議なくらい鮮明に覚えている。

 

こういうことがたまにある。まるで胸の壁を、温かい液体がつたう様な感じを覚えることがある。しかし例えばとても感動した時にそうなるのかというと違う気がする。何でもないようなことで、それは急にやってくる。

そんな時、ああ"こころ"というものは胸にあるんだな、ということが実感できるわけだ。だからそれなりに大事な瞬間ではあるんだろう。

音楽:花唄 - TOKIO